紙飛行機
夏が終わる。
『お前はパイロットには向かない』
お盆祭りの日、一緒に地上に帰る道すがら告げられた。 そんなことは改めて言葉にされずとも、総士にだってわかっていた。 ただ唇を噛み締める。
『休みが明けてからはCDCに入れ』
『……僕に逃げろということですか。他の人間に守ってもらって?』
総士は公蔵の意見を鼻で笑った。
『僕はあなたの息子です。そんなことできるわけがないでしょう!』
激昂しながら、けれど自分の限界などすでに見えてしまっている。 島の責任者の息子として、総士は幼い頃から特別に真実を知らされて育ってきた。 総士がいかに無能であったとしても、今更「できませんでした」で通る話ではないのだ。
『総士、自分に何もできないと思うなら、今できることをしろ』
そんな甘えが通じないことなど、百も承知だろうに。
『……いいな?』
『……わかりました』
結果を出せなかったのは自分で、それ以外にどう答えようがあったのだろう。 総士は頷き、休みが明けてからはCDCで、報告書の作成やデータ解析仕事を行っている。 要領さえわかれば結構簡単な仕事で、定時に家に帰ることもできた。 今まで根を詰めていた分、それさえかえって暇に感じられてしまう。 ファフナーの方が、気になって仕方がなかった。
電話が鳴り始める。
『おーい、総士。夏休みの課題終わったか?』
「……剣司。電話では真っ先に、自分から名乗るのが筋というものだろう」
『いいじゃん、わかったんだから。
俺だってお前の親父さんが出たらきちんと名乗るけどさ、
そんな細かいことは気にするなって』
総士は頭を抱えた。
「それで? 課題ならすでに終わっているが」
『おお! やっぱり総士だよなぁ。
それでこれから文化祭の打ち合わせってできるか?
学校始まってから全部やるのって、結構きついだろ?
ついでに宿題も見せてくれるとうれしいなぁって……』
「お前はこの夏、一体何をしてたんだ?」
『休みは休みで楽しんだに決まってんだろ?
とりあえず場所は甲洋のうちってことで』
こういうのをきっと平和ボケというに違いない。 時間としては同じ一月余りだが、自分と剣司の間では、 ずいぶんと違う流れ方をしたんだなと思う。
「わかった。十三分もあれば着くと思う」
春日井甲洋の家は「楽園」という名の喫茶店を営んでいる。 話し合いには悪くない場所だ。 総士は頭の中で計算して時間をはじき出し、受話器を置いた。 外に出ると遠くに入道雲が見える。 空の色が濃く、白がよく映えた。
「平和だな……」
小さい頃こんなよく晴れた日に、幼なじみと紙飛行機を飛ばした。 島では少し高いところに上れば、空と海が混じる水平線が簡単に見渡せる。 どこまでも続くのだと信じていたそれは、今ではもう偽装鏡面で覆われ、 反転されたものだと知ってしまっている。 それでも青が酷く心に染みた。 こういうものを守るために、自分たちは戦うのだろうか。
ファフナー、戦うための力。
何もできない自分はあの頃と同じようにただ無力で、作り物の空にさえ手が届かなかった。
剣司と総士の対比。
お題をクリアできてるのかどうか、かなり怪しい代物ですね……。
とりあえず、紙飛行機=子供であること=無力さ。
そんな構図で勘弁してください。