まるで目隠し





裸にシーツ一枚という格好で、機械にかけられた。
島の子供たちはフェストゥムと人間のハイブリッドだが、 ファフナーに乗るたびに、フェストゥムの因子が増大して死に近づく。 果林がもっと小さかった頃、 お兄さんお姉さんと呼べる上の世代は、極端に人数が少なかった。 一学年一クラス二十人ほどの教室で、 最近は授業をするのも大変になったと、先生がぼやいていた。 研究が進んで今ではかなりの数の子供が、大人になることを許されているが、 フェストゥムのそれが、人間側の細胞を食らい、内側から結晶化していく。 年を経るごとに進行していくそれが、遺伝子の同化現象であると教わったのは、 テストパイロットになることが決まったときだ。 そのときに真実を明かされた。

「左腕を出してくれるかしら?」

搭乗により、どういう段階を踏んで症状が進行するのか、 どうすればそれを食い止められるのか、まだわからないことは多い。 前の採血の跡が消えないうちに、何度も同じ検査を繰り返すから、 そこは紫色に変色していた。

「……真矢ちゃん、東京に行きたいって言ってました?」

”ちゃん”なんて呼び方は普段しないが、 家族の手前、呼び捨てにするのも気が引けた。 遠見真矢、同学年でこの島唯一の医者・遠見千鶴の娘である。 彼女はいまだのんきに、何も知らない世界で生きていた。 少し前までは自分もそうだったのだろうか。

「え? ……ああ、あの子もまだ子供だから、説き伏せるのに時間がかかって大変だったわ。 お母さんがダメなら、お姉ちゃんと二人で行かせてほしいだなんて、 子供って本当に何を言い出すかわからないわね」

苦笑する。
手のかかる娘だと、けれどそれを愛おしく思っているのが見て取れた。 この島の大人は、子供たちを恐れている。 外側は同じ人間でも、中身は別物なのだ。 だからこうして全身を隈なくチェックされる。 あなたの身体のため、同化現象を食い止めるため。 理解はしていても、念入りな検査に嫌気が差す。 自分たちが大人に対して害をなす存在ではないことを、 確かめられている気がするのだ。 彼女は家に帰って自分の娘に、どのように接しているのだろう。

「この前の登校日のとき、いいなぁって。 皆城君はまだ東京にいることになっているけど、 校長がお盆祭りに出なきゃいけないから、一緒に島に帰ってくるそうです。 だからみんなでお盆祭りに行こうって、話になってて。 根掘り葉掘り聞かれたら、皆城君嫌がるだろうなぁ……。 真矢ちゃんの着付けは先生がやるんですよね?  私は一人でできるかな」
「できそうになかったら、うちへ持っていらっしゃい。 手伝ってあげるわ」

親のいない果林の後見人を皆城公蔵が勤めているのは、 島の内情に明るい人間ならば知っていることだ。 よくしてもらっているけれど、そういう細かいことに配慮が利く人でもない。

「……ありがとうございます」

口が勝手に言葉を紡いでいた。 全てを知った日から世界は一変し、 子供相手に、大人相手に取り繕うことだけが上手くなっていく。 もうあまり意識しなくても、勝手にスイッチが入るようになっていた。 たくさんある自分、それじゃあ本当の自分はどれなのか。 目隠しをされて笑っていた頃の自分が、果林にはもう思い出せなかった。





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真矢と果林の対比。
翔子は学校を休みがちで、真矢と咲良は全然タイプが違う。
だったら果林辺りと仲良くしてたんじゃないかなぁと。
何も知らない級友を見下したい気持ちとか、大人に対する不信感とか、
そういうものを持ってこの夏、果林は生活していて、
自分と同じ中途半端な位置にある総士の前でだけ、自分を作らなくてもいい。
だからそんなに仲良くもないけど、一緒にいたいということだと思います。
前回の総士の弱さに対する、果林の弱さ。