途切れることなく、蝉の叫び声が続く。
たった十日しか生きられないくせに、 これが夏の間中代わりばんこに、その声帯を震わせるのだから堪らない。 あまりの不快さに頭が痛くなるのに、 聞いているのかいないのか意識しないとわからないくらいに、耳に馴染んでしまった。 今日は八月一日、夏期休業中の登校日である。 本来なら持ち物は筆記用具と締め切りが早い課題だけで済むのだが、 包装紙でラッピングされ、ビニール袋に入れられた箱ゆえに少し重たい。 教室のドアを開けて、真っ先に目に付いた集団にそれを投げ渡してやった。

「みんな久しぶりー。はい、お土産」

小さな島だから、学校がないといっても、みんなどこかしらで顔を合わせている。

「東京だっけ?」
「そう、おかげで誕生日もクリスマスも返上よ」
「いいなぁ。私もお母さんにおねだりしてみようかな」

閉塞感に支配された島で、子供たちの外に対する憧れは強い。
彼女が頼み込んでもきっと突っぱねられるのが落ちだろうが、 適当に相槌を打っておいた。

「おい、蔵前ー…。せっかくなんだから、もっと珍しいもん買ってこいよ」
「それだって立派な東京土産よ」
「要はパンパン菓子だろ」

浅草名物、雷おこし。 不平不満を言いつつも、それは彼らの胃袋に消えていく。 学校に飲食物の持ち込みは禁止になっているが、 仕掛け人が大人本人なのだから、特にお咎めもないだろう。 先生がやって来て、慌てて包みの残骸を隠す姿は滑稽だった。 先生の話を聞いて一時間ほどで解放される。 下駄箱で靴を出すとき、偶々隣に居合わせた真壁一騎が問いかけてきた。

「……東京って面白いところなのか?」

今日、皆城総士は学校に来ていない。
”東京”にいるのだそうだ。

「私、東京になんて行ってないわよ」

たたきに落とそうとしていたスニーカーを手にしたまま、 一騎は果林を凝視していた。 これが自分たちとの差なのだ。 そのことに予想外に傷ついている自分がいた。 来るべきときまで、作り物の平和の中で生きるのが自分たちの役目。 それを思い出す。

「……嘘。本当は地名を行ってもわからないような、田舎に行ってきたの。 悔しいから途中で電車を降りて、お土産だけ買ってきちゃった」

適当に言い繕う。 例えそれが真実であっても、自分たち以外にとってはただの荒唐無稽な作り話に過ぎない。 それが現実だった。 まだ彼らは何も知らない。
手を振って別れる。 ”東京”にいるはずの彼に会いたいと思った。





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総士は訓練が上手くいかず、登校日にも学校に行きませんでした。
○EBECの掲示板で見た「安穏と生活している友達に対して苛立ちを隠せなくなっていく」
という蔵前のキャラ紹介の一文を表現してみようとしたらこんなことに……。
果林と話してるのは、真矢と剣司です。
そして唯一出てきた真壁一騎、お前はそんなに皆城が気になるのか(笑)