白詰草 3
剥がれた爪、ぼろぼろになった手ばかり一騎は見下ろしていた。
自分を取り押さえる男たちに掴みかかったときには、まだあったはずだ。
そのあとぶち込まれていた地下牢から、脱出しようともがいていたときに、
四枚ほど剥がれてしまったらしい。
ぎゅっと手のひらを握り込むと、普段爪の下に隠された柔肉が悲鳴を上げて、
痛覚だけを伝えてきた。
総士の側にいたい。
自分を押し殺して、我慢して耐えることしか知らないような人だから、
せめて自分が近くにいて支えになってやりたくて――、そのために一騎は騎士を目指したのだ。
それ以外は何も望まず、ひたすら鍛錬に明け暮れた。
あの日々は一体何だったのだろう。
結局何も守れなかったじゃないか。
「……一騎、起きているか?」
窓辺に腰掛けたまま、焦点の合わない息子に史彦が話しかける。 状況が落ち着いて、地下牢に放り込まれていたのを史彦が引き取ってきたのだが、 一騎はずっとこんな調子だった。
「父、さん……?」
「ああ、そうだ」
自分の内側ではない、外の世界を急に認識する。 一騎は史彦に縋りついた。
「そう、し……。父さん、総士が!」
さっきまで生きているのか、 死んでいるのかさえわからなかった様子からは想像できないくらいに、 一騎の中で停滞していた感情が、はけ口を見つけて外へ溢れ出していく。 そうしてひとしきりしゃべったあとは、また黙り込んでしまうのだ。 ここ数日、その繰り返しだった。
「総士を助けて……っ、お願いだから総士を助けてよ!!」
「落ち着け一騎」
「父さん、総士を――」
自分で助けられないのなら、もう誰かに頼むしか方法は残っていない。
別に相手が父親でなくても、一騎は同じように懇願しただろう。
感情が内に籠もっているか、外に流出しているかの違いだけで、
一騎は史彦と真に向き合って言葉を発しているのではなかった。
ただ自分の無力さを埋め合わせるために、声を上げ祈る。
史彦はそんな一騎の姿に眉をひそめた。
このまま放っておけば、感情を出し尽くした一騎は、
電池が切れたように動かなくなって、再び吐き出すべきものが溜まるまで、
いくら話しかけても無反応になる。
その前に、史彦は一騎の切れ端を掴まえなければならなかった。
「いいから落ち着いてよく聞くんだ。
……お前に、結婚の話が来ている。相手は遠見だ」
「遠見……?」
「そうだ」
史彦が肯定する。
王を殺した裏切り者の遠見――。
一騎から総士を奪った者の名だった。
「そんな話、絶対受けないからな!」
普段温和な一騎の苛烈な反応。 例え拒絶であっても、息子の目が正気に戻ったことに、史彦は少なからず安堵した。
「……真矢君とはずいぶん仲良くしていただろう」
「それでも俺は……! 俺は、嫌だからな……!!」
真矢が悪いのではないことくらい知っている。 それでも感情がついていかなかった。
「……ミツヒロは軍で発言力を持つ真壁の力を借りて、騎士団の不穏な動きを鎮圧したいらしい。 皆城と親交の深かった生駒が、 あからさまではないものの、クーデターへの不支持を表明している。 ミツヒロは騎士団と生駒が手を結ぶのを恐れているんだろう……。 あのパーティ会場に、総士君がいなかったことがせめてもの救いだな。 そうでなければどさくさに紛れて、とっくに息の根を止められていたはずだ」
なぜ、あのとき総士の手を引いて国境を越えてしまわなかったのか。
使命感に篤い彼女がそうするとは決して思えなかった、なんていうのは一騎の言い訳に過ぎない。
本当は総士に断られるのが恐かった。
だから一緒に逃げようなんて言えなかったし、まして好きだと伝えたことすらなかった。
言っても変わらない現実もある。
けれど声にして、態度に出さなければ、変わらない現実もある。
言えば何か変わっただろうか。
「だが時間が経ち過ぎた。ミツヒロは総士君を殺せない……。
今そんなことをすれば、王権派を煽る結果になるからな。
総士君が生きている以上、王権派は必ず彼を救出しようとする。
けれど逆に、ミツヒロが総士君を抑えている以上、彼らはそれほどの無茶はできない。
総士君には人質としての価値がある。
だからまだ殺されることはない」
「まだって……、そんなこと言ったって、それはずっとじゃないだろ!
……父さんは、遠見側につくのか?」
一騎に真矢との縁談を持ってきたということは、父はそれを了承したということだ。
「うちはお前が結婚できなければ、跡継ぎとしての資格がない。
生駒に西尾、それから要――。
上級貴族の真壁と釣り合う家柄で、年頃の娘がいるところなど限られている。
遠見なら申し分ない、というわけだ。
全く足元を見られたものだな……」
「父さんも将軍職に就くまでは騎士だったんだろっ。
それなのに……、そんな仲間を売るようなことをしてまで、真壁の財産がほしいのか!?
どうなんだよ、父さん!」
史彦は将軍職に就いてからは忙しさを理由に騎士を降りたが、 一度は王に忠誠を誓った身だ。 本当に、目の前で王を殺されて黙っていられるのか。 総士は気になることがあるなら、きちんと確かめろと言った。 一人で悩んで、勝手に疑うのは自分の悪い癖だ。
「お前は、母さんの思い出が詰まった屋敷を失えるのか? ……跡継ぎとしての資格を失うとは、つまりそういうことだ」
史彦にとっては懐かしさを喚起するもの。 本人に関する記憶がほとんどない一騎にとって、それは母はそのものだといってよかった。 寂しいとき、生前のまま残してある母の部屋や、 その持ち物に慰められたことは数知れないほどあった。 分家に真壁を譲るということは、それらが全て失われるということだ。 それでも総士はまだ生きている。 死んだ母との思い出と秤にかけて、失っていいものではない。
「俺は……、総士を助けたい。ただ、それだけなんだ」
いつだって望むのは、総士の側にいたいという、ただそれだけのことだった。
「この部屋の住み心地はどうだい?」
城の一室に総士は軟禁されていた。 地下牢というわけではないから、もちろん明かりだって入ってくるし、 部屋の中身は他の客室とそう大差ない。 外に出ようと思わなければ、そこそこに快適な生活が送れる場所だった。 だが目も前の相手に、そんなことをいちいち答えてやるつもりもない。
「……父は殺したくせに、僕のことは殺さないんですか?」
「こっちにはこっちの事情というものがあるのでね」
にこやかな顔の下から、支配者の傲慢さが覗く。
「事情……、ですか。 急進的なやり方は反感も買う。 大貴族の生駒、それから忠誠心に篤い騎士団には手を焼いているようですね。 下を扇動するのは容易くても、彼らはまだ味方にできませんか?」
根っからの王子なのだ。
籠に囚われても、総士は甘んじて支配を受ける種類の人間ではなかった。
「君の外見は鞘によく似ているが、中身は兄さん似だ。
君の生命を握っているのは私だということを、よく憶えておきたまえ。
その賢さは、ここでは命取りにしかならない」
「脅しているつもりですか?
――今の時代、王が民の意見も聞かず、独裁を行っているのはおかしい。
……あなたはそうおっしゃったそうですね。
父が立憲君主制に移行しようとしていたことを、
あなたは誰よりもご存知だと思っていましたが?」
一騎と離れされ連れて行かれる途中で、兵士たちがミツヒロの理想がいかに崇高で、
公蔵がいかに時代遅れなのかを語ってくれた。
だが共和制を――、その前段階の立憲君主制を導入しようとしていたのは、
国王である公蔵だったはずだ。
総士が女である以上、国は継げない。
総士に王子という立場を強いた公蔵だったが、それを一生続けるつもりは毛頭なかったらしい。
だからこそ王がいなくても国が動くように、体制を作り変える気でいたのだ。
「だがそのことを事前に知っていたのは、君と私くらいなものだろう。
他に誰がそれを証言できる?
古い王権は倒れた。新しい時代の幕開けだよ」
「その王権に、あなたが取って代わるというわけですか」
「今まで王権に頼って政治を行ってきた彼らに、一体何を決めることができると?
結局王という頭を挿げ替えるだけで終わるさ。
……遠見という忌むべき風習。
王家を追い出された私が王家を乗っ取る。実に愉快だとは思わないかね?
これは私だけでなく、今までいた遠見たち全員の復讐だよ」
「王家を遠く離れて見守る者――。あなたに遠見の資格はなかったようですね」
外から王家を支える、遠見という存在。
言い伝えによると、初代遠見は実にできた弟で、兄と権力争いをしないために、
自ら臣籍に下ったのだという。
「口を慎みたまえ」
総士の首を、ミツヒロが締め上げる。
「……最初からこうすればよかったんだ。 君が生まれた日のことを、忘れたことなど一度もなかった。 あれは私が王家を追放されることが決まった日だからね」
意識が遠くなる。 手と首の間に、何とか指を滑り込ませようと総士はもがいた。 しばしの攻防のあと、絨毯の上に放り出される。 何度も咳を繰り返し、空気を吸った。 唾液が口の端を伝う。
「ち、ちは……、……あなたが遠見になっても、変わらず兄弟だと思っていた……。 あなたはその期待を裏切ったんだ……」
総士が途切れ途切れに言葉を紡いだ。 頭が重くて持ち上がらない。 絨毯の上に沈んでいく。
「何を言うかと思えば……、先に裏切られたのは私の方だよ」
ミツヒロの声が上から降ってくる。 総士はそのまま意識を手放した。
「今日はもう、帰ってこないのかなって思ってた……」
ミツヒロがクーデター以来初めて遠見家の門をくぐったのは、夜も遅くなってからのことだった。 生活リズムが合わない妻とは、結婚した当初から寝室を分けてある。 誰もいるはずがないと思っていた室内には、よくよく目を凝らすと末娘の姿があった。
「皆城君がね、
お父さんが忙しいのは議会とか作らなきゃいけないからなんだよって、言ってた。
でも本当は全然違ってたんだね」
「真矢……」
「何でおじさんのこと、殺したの?」
淡々と問いかける声。 でもそこには非難の色が透けて見えた。
「真矢にはわからない、大人の事情っていうものがあるんだよ」
「子供扱いしないで、ちゃんと話して!
皆城君もおじさんも、私たちにすごくよくしてくれたのに……。
私たち王様あっての遠見でしょう? なのに、何でそんなことするの……?」
弓子にしても千鶴にしても、遠見の女はみな感情的だ。 彼女らのそういう部分をミツヒロは軽蔑してきたが、 大義さえあれば納得してくれる貴族や兵と違って、 彼女たちは人を殺したという事実そのものに憤っているのだから、懐柔することは難しい。 なかなか簡単に誤魔化されてくれない。
「国王あっての遠見……。確かにそうだ」
ミツヒロが娘に合わせて膝を折る。 視線を合わせると大きな瞳が揺れ動いていた。
「貴族と王の、間の存在。
真矢は遠見が王の弟で、だから特別だと、本気でそう思っているのかい?」
「だって……、だからお父さんはあっちこっち外国に行ってたんでしょう?」
真矢が今の暮らしをしていられるのも、 王宮に平気で出入りで出て、総士と仲良くしていたのも、全部遠見という肩書きがあったからだ。 王がいなくなれば、遠見の地位を保証するものは何もない。 そのことが真矢にとってはたまらなく不安で仕方なかった。
「遠見は特別なんかじゃない……。仲間外れの印なんだよ」
「仲間はずれ……?」
「王家は王位継承権を持つ人間を、一人しか認めない。
王とそれを継ぐ者。
王が死ねば王子があとを継げばいいし、
王子が死ねば王がまた産ませればいい。
通常は保険として第二王子までは置いておくがね、
第一王子に跡継ぎができた時点で、王位継承権を剥奪して、
遠見という姓を与えるのが慣わしだ。
だから最初から私には、保険としての意味しかなかったわけだ」
遠見という制度は、継承権争いを続けてきた王家の知恵だ。
王に姉妹がいれば降嫁させ、弟が生まれれば遠見という姓を与えて王家から出す。
遠見は一代限りで、生まれた子供はみな婚姻を機に、どこかの家の籍に入る。
そのため上級貴族であれば、どこでも少なからず王家の血を引いていた。
「……兄さんは非常に優秀でね、幼いときから後継者としてみんなに認められていたよ。 父も母も兄さんに構いっぱなしで、 同じ家にいるのに、自分だけが家族じゃないみたいだった……」
公蔵はそんなミツヒロを気にかけて、何をするにもミツヒロを誘ってくれた。
二人で軍に入って、腕を競い合ったあの頃が一番楽しかったが、
その公蔵でさえ総士が生まれると同時に、ミツヒロを皆城から追い出した。
それ以来ミツヒロはずっと遠見だ。
皆城から切り離された、遠い存在。
「遠見は所詮、王の弟で、おまけに過ぎない。
王がいる以上、本当には必要とされない存在なんだ」
「……ねぇ、お父さん。家族ならここにもいるじゃない……」
外国に行ってばかりの父親でも、真矢はずっと家族だと思っていた。
祖父母や伯父にいつまでも拘り続けるミツヒロにとって、
真矢の存在は一体何なのだろう。
父を慰めたかった。
けれど疑問も消えない。
小さな呟きは、真矢の中に波紋を残した。
空は晴れ渡り、春から夏へと向かって色を濃くしていく木々の葉を、風が戯れに撫でていく。
そんな穏やかな午後に、小さい頃からよく知る相手と、
こんなに緊張して顔をつき合わせたこともなかっただろう。
すでに決定事項となっているお見合い。
遠見家の執事だという人は、庭に面したテラスに案内してくれたあと、
早々にこの場を立ち去ってしまった。
知らぬ仲じゃあるまいしと、今日は史彦の付き添いさえない。
慣れない手つきで真矢がお茶を入れる。
湯気が立ち上り、風に流されていった。
真矢が何回か口を開きかけては止め、唇を噛んだ。
一騎はそんな真矢には目もくれず、湯気を静かに見つめていた。
真矢の瞳が諦めに歪む。
こんなことになる前、真矢はよく一騎を総士のもとに誘った。
総士の名を出せば、一騎が断らないことを知っていたからだ。
一緒にいたかった。
一緒にいれば楽しかった。
それなのに、今は二人でいても気まずいだけだ。
一体何が変わってしまったのだろう。
「私、遠見だもんね……」
一騎は最初から、ずっと総士の味方であることを決めていた。 国を守る軍とは違って、騎士はただ王のためにある。 真矢がいくら一騎の味方でいたいと思っていても、一騎が総士の味方である以上、 それは叶わない願いでしかなかった。
「顔を合わせたくないって言うんなら、それでもいいから、話だけでも聞いてくれる?」
云とも寸とも言わない一騎に、真矢が辛抱強く話しかける。
「うち、お父さんとの間に溝みたいなものがあって、 そういうの、お父さんが仕事で忙しくて家にいないせいだと思ってたの。 毎日一緒にご飯を食べたり、話をしたりすれば、それが埋まっていくんじゃないかなって、 何となくそう思ってた」
総士と公蔵だって、忙しくても理解し合えていた。 日常なんて些細なことの積み重ねだ。 遠くに離れているからわからないだけで、毎日一緒にいれば、自然にわかるようになる。 それが真矢の思い描いた家族だった。
「そんな簡単なものじゃなかったんだよね……。 遠見は仲間はずれの印だって、お父さんそう言ってたの。 おじいちゃんもおばあちゃんも、おじさんのことばかり構って、 お父さんとはちっとも本当の家族らしくなかったって……」
ミツヒロは家族の縁が薄かった分、誰よりも家族の絆を求めた。 王の弟ではない、スペアではない、そういう自分を認めたほしかったのだ。
「多分、今まであったそういうのが、
皆城から遠見の姓に変わったときに、はっきりとした形になっちゃったんだと思う。
一人だけ家族じゃないよって、そういう印。
お父さんはそれが我慢できなかったんじゃないかな……」
「だから……、だから許せって言うのか……?」
一騎が問いかける。
「ううん……。 もうこういうこと話せるの、一騎君しか思いつかなくて、聞いてほしかったの。 ただそれだけ……。 仕方ないよね、皆城君がここにいないんだから」
生まれる家族なんて、誰にも決められない。 だからこそ、上手くいかないのなら、自分で新しい家族を作っていけばいい。 そうやって人は人生を、何度でもやり直すことができるのではないだろうか。 ミツヒロにとっての家族が真矢たちではなく、 いつまで経っても祖父や伯父でしかなかったことが悲しい。 今まで過ごしてきた年月――真矢が生まれてからの時間すべてに、 全く価値がないといわれているようだった。
「結婚の話は一騎君の方から、断っておいてくれる?」
それでも真矢は遠見なのだ。 どうしたって父親を本気で憎むことなどできない。 一騎だけの味方ではいられなかった。
「……俺はこの話、承知したんだ」
「どうして?」総士は自分が女として生きれない分、
従姉である真矢には幸せになってもらいたいと思っていた。
そんな彼女が知ったら、どう言うだろう。
きっと悪し様に罵られるに違いないが、全ては総士にもう一度会ってからの話だ。
伸ばして届かなかった手。
理由を付けなければつなぐことさえできなかった手――。
もう失いたくはない。
「そっか……」
――遠見は王の代わりで、王がいる以上本当に必要とされることがない。
父が囁いた言葉が耳に蘇ってくる。
皆城と遠見、変わることのない運命を謳った一つの呪詛。
真矢はそれを振り払う。
「うん、わかった……。私も協力する」
運命だと思っているうちはそれに囚われてしまう。
恨んでも何も変わらない。
今ここに総士がいてくれればいいのに、と真矢は思う。
話したいことがたくさんある。
行き場をなくした言葉が、零れ落ちていく。
「いつも皆城君が一緒にいたから、二人だと何か変な感じがするね……」
二人きりの違和感の正体。
三人でいたときには気付かなかったことだが、
真矢と総士の間には従姉弟同士というつながりが、
総士と一騎の間には王子と騎士――それをもっと超えた親友のようなつながりがあった。
けれど真矢と一騎の間には何もない。
友達という形はあっても、
一騎の中で真矢と総士の立ち位置が等しくないから、
天秤は簡単に傾いてしまう。
それに今まで気付かなかったのは、真矢が総士と同じ側の天秤に載っていたからだ。
反対側に載せられて、初めてその価値の違いがわかる。
一騎もミツヒロも、決して真矢を選ばない。
王の前では遠見の存在に価値はない。
簡単なところに理由を求めて、納得しようとしている自分が嫌だった。
特別なんて望まないから、三人でいた頃に戻りたい。
真矢の中の寂しさをつまらないものだと笑わずに、ちゃんと拾い上げてくれた総士だったら、
今自分の中に澱のように凝っていくものを、何とかしてくれるのではないだろうか。
ぎこちない笑顔を見破られないように、真矢は一騎から視線を逸らした。 込み上げてくるものを堪えて、空を見上げる。 一面の青が目に染みて、真矢の頬を一筋の涙が伝っていった。
公蔵とミツヒロが兄弟なのは、この話の中だけなので、
そこにあんまり因縁を作るのもなぁと思ったのですが、
ミツヒロが権力狙いのためだけに、クーデターを起こしたというのも何か嫌だったので、
結局こんなことになりました。
おかげでちっとも話が進みません……。
兄弟一緒に軍に入り、ミツヒロが身分の低い史彦や溝口を貶しながらも、
誠一郎も含め五人くらいで仲良くやっていた時代もあったり。
史彦が紅音に求婚されたり、紅音に連れられてやってくる鞘に、
公蔵が惚れたりしたのはもちろん、
他にも軍の衛生班にいた千鶴とミツヒロが出会ったのも、軍時代の話です。
何だかんだ言って、兄弟仲はそれなりによかったんですよ、昔は。